長年懇意にしてきた税理士と、最新のクラウド会計ソフト。電子帳簿保存法への対応として最適なのは、どちらだと思いますか?
2022年、電子帳簿保存法(以下、電帳法)が改正され、2024年1月1日以降、電子取引に関する電子データの保存が義務化されました。
そのため一時期、中小企業をターゲットに会計ソフトやクラウドサービスの導入が盛んに呼びかけられ、不安や焦りを覚えた経営者も多かったのではないでしょうか。
その影響もあってか、会計ソフトの導入について弊社にご相談いただいた企業様が直面していたジレンマが、タイトルの問題です。
電帳法への対応をめぐる企業様のお悩みをどう解決に導いたのか、また一つ、こだまシステムらしさあふれる実録エピソードをご紹介します。
現状は税理士への『アウトソーシング』だった
電帳法の改正を受け、会計ソフトの導入をご相談くださったクライアント様。現在は付き合いの長い税理士の先生に、会計を一任しているということでした。
その税理士は社員も同然にクライアント様をよく理解しており、伝票を投げれば形になって返ってくるという阿吽の呼吸で、企業活動を長年支えてきてくれたそうです。
実はこのような状態はいわゆる“属人化”に近く、我々がITの力で解消を呼びかける状況でもあります。
しかしお話を伺うと、お客様は現状に何の不満も問題も抱えてはいなかったのです。
通常、一部の業務が属人化すると、担当者が不在だと何もわからない、離職されると引き継げる人がいないなどの問題を引き起こし、不満の温床になります。
ところが、このクライアント様はむしろ、「この人に任せておけば大丈夫」という絶大な信頼の元、会計業務を税理士に一任する、それこそ『アウトソーシング』により、自社の負担を減らしていたのです。
それにもかかわらず、電帳法改正をきっかけに世間からデータ化への対応を急かされ、会計ソフトを導入しなければと焦っていたのでしょう。
会計ソフトによる内製化で起きる2つの問題
さてこの状況、ご希望通りの会計ソフトを提案することは簡単ですが、はたしてそれでうまくいくでしょうか。
こだまシステムは、このまま会計ソフトによる内製化を進めると、主に2つの問題が生じると考えました。
①不慣れな経理業務が負担になる
まず一つ目は、今まで全てを税理士に任せていたため、経理業務に詳しい人材がいないことです。
会計ソフトを使うということは、黙っていても税理士がこなしていた事務処理を、一から社内で行わなければなりません。
とりあえず紙の伝票をためて、それをまとめて「お願いします!」では機械は動いてくれないからです。
電子帳簿にするためには、まずお金の出入りをきちんとデータ化し、システム上で管理できる状態にするプロセスが必要です。
今いきなり高性能な会計ソフトを導入しても、それを使いこなせるまでには時間も労力もかかります。
ましてや、今まで主体的に携わっていなかった業務を一から形にしようとしたのなら、現場には相当なストレスがかかるでしょう。
②長年貢献してくれた税理士が不要になる
二つ目は、会計ソフトで全てを完結すると、懇意にしている税理士の先生が不要になること。これはある意味、経費削減とも言えますが、大きな問題もないのに長年の関係をあっけなく切り捨ててしまうことは、心理的な抵抗を伴います。
無関係な社員にも、「この会社は人情味がないのでは」という不安感や不信感を与えかねませんよね。
さらに、会計業務の内製化にあたり難しいことやわからないことがあったときにも、もうその先生を頼ることは厳しいでしょう。
よほどのことがない限り、築き上げた人間関係を安易に断ち切ることは、できれば避けたいものです。
伝票の電子化から始めて移行への基礎固めを
このような状況をふまえ弊社が提案した結論は、税理士との関係を保ったまま、電子化への移行準備を段階的に進めること。
具体的には、まずは全て紙で切っていた伝票をデータ化して管理し、会計業務の社内基盤を作り上げることでした。
電子取引のデータ保存が義務化されたのは、法改正から2年後の2024年1月1日。ご相談いただいた時には、まだ2年近く猶予がありました。
そのため、何もいきなり全てを会計ソフトで内製化しなくとも、まずは一部の機能のみを導入し、伝票だけでもデータで管理できるようにしておけば十分だと考えたのです。
そうすることで、今まで通り会計は税理士に一任したまま、社内でもお金の出入りを可視化し、今まで人任せだった経理へのリテラシーを徐々に高めていくことができます。
会計ソフトも、ベースとなるところから少しずつ慣れていった方が現場への負荷も少なくて済みます。
こうしておけば、いよいよ移行期間が終了したときには、税理士とは従来通りの付き合いのままでも、きちんとデータ化の義務を果たせるのです。
その頃には、社員も経理や会計ソフトに慣れ、さらなる機能を求めるようになっているかもしれません。
そして万が一、ご高齢の先生が引退を決意される時がきたら、満を持して高度な機能を開放し、会計業務の属人化を脱却すればよいのです。
まとめ:効率化・システム化だけが解決策じゃない!
電子帳簿保存法の改正をきっかけに、会計ソフトの導入が引き起こした思わぬ悩み。
効率か信頼か、システムか人情か、悩ましい経営判断を迫られる場面は、他にも色々とあるのではないでしょうか。
弊社が出した答えが、必ずしも正解とは限りません。別のIT企業であれば、法改正を機に属人化を脱却するという、真逆の改革を提案されたかもしれません。
しかし大切なのは、クライアント様がその提案にどれだけ納得できるかどうか。
お悩みの本質を見抜ぬいた結果、時には本来望ましいはずの効率化やシステム化とは相性が良くないケースもあります。そしてお客様自身がそのことに気づかぬまま、効率化を求めていることさえあるのです。
一般論で望ましいとされることが、必ずしも御社にふさわしいとは限りません。その逆もまたしかり。企業の数だけ、お悩みの解決策があるのです。
一社一社に寄り添って作り上げたオーダーメイドの解決策は、必ずしも効率的である必要はないのです。
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